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■Chopin 2010 |
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森知英p
森は、東京藝大・同大学院修了、第8回ベートーヴェン国際コンクール(ウィーン)第4位、第13回ショパン国際コンクール(日本代表として派遣)ディプロマ受賞し、室内楽やオーケストラとの共演でも活躍する実力派として評価が高い。今回は確かな技巧に加え、テクスチュアから引き出した響さの多層性や厚みのある作品像に磨きがかかっていた。
ラヴェル(夜のガスパール》「ス力ルボ」終盤では、アルペッジョのすべての音が微妙なバランスで混ざり合い、オーケストレーション巧者ラヴェルの管弦楽作品を聴くような艶やかな響きの総体が浮かび上がった。
後半はショパンの前奏曲。多様な声部が絡み合うほど美しい響きが織り成されたニ長調はまさにアラベスクだったし、シンプルな構造だけに奏者の内容が問われるイ長調では微妙なペダリングを施されたアルペッジョやアゴーギグ等によって濃密に彫琢され、心を揺さぶる名曲に。
終結の主旋律に清澄な響きが立ち上った嬰へ短調など、持てる世界の豊かさが一層拡がっていた。
(9月3日・東京オペラシティ)〈小倉多美子〉
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■音楽の友 2009年2月号 Concert Reviews p153 |
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●ピアノ森知英&東京フィル・メンバー
東京芸大、同大学院修了。日本音コン、ベートーヴェン国際音コン等々で入賞、ショパンコンクール・ディプロマ他。と、改めて履歴を書き並べるまでもなく、すでに実力派と認知されている森。意欲的な自主公演も10年目を迎え、当夜は東京フィルのトップメンバーと共にソロ、協奏曲、室内楽で魅せた。
良く脱力された腕からはふくよかな音色が流れ、4曲を一つに感じさせるシューベルトの「4つの即興曲」op90。思索に富みかつ温かい。
泉原隆志(vn)、宮川正雪(vn)、須田祥子(va)、金木博幸(vc)、甲斐沢俊昭(cb)と共にモーツァルト[ピアノ協奏曲第12番」、ブラームス「ピアノ五重奏曲」。森の絶妙なアンサンプ力。まさに「ローマは一日にして成らす」で、森がこれまで積み重ねてきた中から次々に披露される匠の技。週感情の泉原を巧くコントロールし宮川に託したり、金木の旋律との語らい。重厚で難曲のブラームスも独自の技巧で解決。小柄な森の大和魂、これぞ「なでしこジャパン」である。(10月25日・東京オペラシティ・リサイタルホール)
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■岩手日報 2008年10月28日
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■ムジカノーヴァ 2007年10月号 “森知英さん『自分を信じて』” (2007年10月) |
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ニコニコと笑顔で現れた森知英さん。彼女は、今なおバンカラ文化の伝統を守り続ける進学校、岩手県立盛岡第一高等学校の出身。こんなかわいらしい人が、バンカラ応援団の和太鼓に合わせ、大声を張り上げていたとは!
「練習はとても厳しく、声が小さいと、前に出て正座をさせられるんですよ」
周囲のだれもが彼女の音楽高校行きを信じていた中、普通校への進学を強く希望した森さん。その理由は?
「音楽の道に進む、という気持ちがぶれたことは、一度もありません。ただ、いずれその世界にどっぷり浸ることがわかっていたので、その前にいろいろな経験をしておきたかったんです」
ピアノのレッスンは平均週2回。それでも、突き指を恐れることもなく体育の授業に、そして学校の行事にも、ごく当たり前のように参加した。さすがに部活までは、と思って尋ねてみると、
「いいえ、茶道部に入っていました。お菓子が食べたかったから」
と、いたずらっぽく笑ってみせた。
そんな彼女が、突如、表情を引き締めて語り出したのは、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会を決意したころの話。
「ショパン・コンクールでディプロマをいただいたとき、これからは先生のもとを離れて自立しなくては、と思ったのに、なかなか自信が持てなくて・・・。そんなとき、ある方から『自信というのは、自分を信じることなんだよ』と教えられました。自信過剰はもちろん良くないですけれど、自分から逃げていては、自信は生まれてこない。難しいけれどやってみようと」
そして挑んだ全曲演奏会。結果は?
「自分ではよくわかりません。でも、今は根拠のない自信でも、それをひとつひとつ積み重ねていけば、いずれ本物の自信になるのかなって。現在は、室内楽にも力を入れているんですよ」
そう言って、再び笑顔を覗かせた。
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