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 今まで雑誌や新聞などで掲載された記事をご紹介します The Press


音楽の友 2017年9月号

新聞記事 しずくいし夏の音楽祭 2017年


岩手日報 2015年10月25日
Chopin 2010

森知英p
 森は、東京藝大・同大学院修了、第8回ベートーヴェン国際コンクール(ウィーン)第4位、第13回ショパン国際コンクール(日本代表として派遣)ディプロマ受賞し、室内楽やオーケストラとの共演でも活躍する実力派として評価が高い。今回は確かな技巧に加え、テクスチュアから引き出した響さの多層性や厚みのある作品像に磨きがかかっていた。
ラヴェル(夜のガスパール》「ス力ルボ」終盤では、アルペッジョのすべての音が微妙なバランスで混ざり合い、オーケストレーション巧者ラヴェルの管弦楽作品を聴くような艶やかな響きの総体が浮かび上がった。
後半はショパンの前奏曲。多様な声部が絡み合うほど美しい響きが織り成されたニ長調はまさにアラベスクだったし、シンプルな構造だけに奏者の内容が問われるイ長調では微妙なペダリングを施されたアルペッジョやアゴーギグ等によって濃密に彫琢され、心を揺さぶる名曲に。
終結の主旋律に清澄な響きが立ち上った嬰へ短調など、持てる世界の豊かさが一層拡がっていた。
 (9月3日・東京オペラシティ)〈小倉多美子〉


音楽の友 2009年2月号 Concert Reviews p153
●ピアノ森知英&東京フィル・メンバー
東京芸大、同大学院修了。日本音コン、ベートーヴェン国際音コン等々で入賞、ショパンコンクール・ディプロマ他。と、改めて履歴を書き並べるまでもなく、すでに実力派と認知されている森。意欲的な自主公演も10年目を迎え、当夜は東京フィルのトップメンバーと共にソロ、協奏曲、室内楽で魅せた。
 良く脱力された腕からはふくよかな音色が流れ、4曲を一つに感じさせるシューベルトの「4つの即興曲」op90。思索に富みかつ温かい。
 泉原隆志(vn)、宮川正雪(vn)、須田祥子(va)、金木博幸(vc)、甲斐沢俊昭(cb)と共にモーツァルト[ピアノ協奏曲第12番」、ブラームス「ピアノ五重奏曲」。森の絶妙なアンサンプ力。まさに「ローマは一日にして成らす」で、森がこれまで積み重ねてきた中から次々に披露される匠の技。週感情の泉原を巧くコントロールし宮川に託したり、金木の旋律との語らい。重厚で難曲のブラームスも独自の技巧で解決。小柄な森の大和魂、これぞ「なでしこジャパン」である。(10月25日・東京オペラシティ・リサイタルホール)

岩手日報 2008年10月28日
ムジカノーヴァ 2007年10月号 “森知英さん『自分を信じて』” (2007年10月)
 ニコニコと笑顔で現れた森知英さん。彼女は、今なおバンカラ文化の伝統を守り続ける進学校、岩手県立盛岡第一高等学校の出身。こんなかわいらしい人が、バンカラ応援団の和太鼓に合わせ、大声を張り上げていたとは!
「練習はとても厳しく、声が小さいと、前に出て正座をさせられるんですよ」
 周囲のだれもが彼女の音楽高校行きを信じていた中、普通校への進学を強く希望した森さん。その理由は?
「音楽の道に進む、という気持ちがぶれたことは、一度もありません。ただ、いずれその世界にどっぷり浸ることがわかっていたので、その前にいろいろな経験をしておきたかったんです」
ピアノのレッスンは平均週2回。それでも、突き指を恐れることもなく体育の授業に、そして学校の行事にも、ごく当たり前のように参加した。さすがに部活までは、と思って尋ねてみると、
「いいえ、茶道部に入っていました。お菓子が食べたかったから」
と、いたずらっぽく笑ってみせた。

 そんな彼女が、突如、表情を引き締めて語り出したのは、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会を決意したころの話。
「ショパン・コンクールでディプロマをいただいたとき、これからは先生のもとを離れて自立しなくては、と思ったのに、なかなか自信が持てなくて・・・。そんなとき、ある方から『自信というのは、自分を信じることなんだよ』と教えられました。自信過剰はもちろん良くないですけれど、自分から逃げていては、自信は生まれてこない。難しいけれどやってみようと」
そして挑んだ全曲演奏会。結果は?
「自分ではよくわかりません。でも、今は根拠のない自信でも、それをひとつひとつ積み重ねていけば、いずれ本物の自信になるのかなって。現在は、室内楽にも力を入れているんですよ」
そう言って、再び笑顔を覗かせた。

岩手日報 “緩急自在にベートーベンのピアノソナタ4曲を奏でる” (2004年11月17日)
 IBC岩手放送が主催する盛岡市出身のピアニスト森知英さんのベートーベンピアノソナタ全曲完秦記念リサイタルは十四日、盛岡市内丸の県民会館で開かれた。
 四百五十人が鑑賞した。曲目は七番、八番「悲愴」、三十番、二十三番「熱情」の四曲。熱情では、無数の音のなめらかなつながりで感情の高まりを表現したほか、ベートーベンへの思いをかみしめるように演奏した。
 ベートーベンのピアノソナタは全三十二曲。一九九九年十月から今年八月まで、東京都で開かれた九回のリサイタルで全曲を演奏した。
 静と動のコントラストが鮮やかな演奏で聴衆を魅了した森さんは「全曲を弾き終えて、ますますベートーベンが好きになった」と振り返った。


岩手日報 “王道”への第一歩 森知英さん、5年間で完奏
   〜ベートーベンピアノソナタ全曲演奏〜 (2004年9月15日)
  盛岡市出身のピアニスト森知英さんはこのほど東京都でベートーベンピアノソナタ全曲演奏会の最終回を開き、三十二曲を完奏した。全曲演奏は一九九九年秋から約五年間、全九回にわたる息の長い取り組み。ピアニストの王道ともいえる挑戦のゴールを迎えた森さんは「大きなはじめの一歩。ようやく入り口に立ったという感じ」と話す。演奏会後に思いを聞いた。

   ライフワークへ決意新た

最終回は八月二十九日、東京都新宿区の東京オペラシティ・リサイタルホールで開かれた。観客は二百三十人。残る初期の四番、中期の十六番、そして最後の三十二番を弾き終えた。
 楽聖ベートーベンのピアノソナタの中でも三十二番は究極の高みにあり、現実界を離れた天上を思わせるという。
 終了後「充実感とともにほっとしたという気持ちが一番大きい。一回一回を大変な思いをして乗り越えてきた。さまざまな人が喜んでくださることが支えになった」と解放感と感謝を口にした。
 「本当に好きな人でないと取り組まない」という全曲演奏は、ベートーペンに対する畏敬と感謝の証しでもある。今回一つの区切りを迎えたが、これで終わりではない。
 「とりあえず入り口に立ったという感じ。一回で分かるものではなく二回、三回と続けるうちにもっともっと練れてくると思う。一度取り組んだ人はそういう覚悟でやっているはず」。ライフワークとして決意を語る。
 森さんは、ベートーベンの曲から大きなエネルギーをもらうことができるという。楽しい曲に限らない。短調の悲しい曲でも沈み込むのでなくふつふつとエネルギーがわいてくる。
 「ベートーベンはとても困難な人生を歩んだ人。そしてどんなことがあってもはい上がってきた。そこには強さだけではない、やはり明るさがないと。だからこういう人の魂に訴えかける力が強い音楽が生まれてきたんだなと思う」
 全曲演奏以前から続く取り組みもある。秋に青森県三戸郡で小中学生募集めて開かれる演奏会は今秋で十年目。全曲演奏同様、喜びをかみしめながら自然体で一歩一歩積み重ねてきた。
 今後の関心を尋ねると、伴奏ピアノが主張するベートーベンバイオリンソナタと迷宮のような複雑さを内包した美しいロマン派のシューマンを挙げた。
11月14日、盛岡で記念演奏会
 IBC若手放送主催の森知英ベートーベンピアノソナタ全曲完奏記念リサイタルは十一月十四日午後二時から、盛岡市内丸の県民会館中ホールで開かれる。
 曲目はピアノソナタ七番、八番悲愴、三十番、二十三番熱情の四曲。人気曲や思い出の曲で全曲演奏を振り返る


ぶらあぼ「魂の奥底に伝わるベートーヴェンの魅力を] (ぶらあぼ2004年8月号 P.25)
 21世紀に入り、ベートーヴェン演奉にもいろんなアプローチが出てきたが、やはりまだ偉大で崇高なイメージを持っている人も多いのでは?そんな人は、1999年から足かけ6年かけてじっくりと「ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏会」に取り組んできた森知英(もりちえ)の演奏に耳を傾けてみては?
アタマでっかちでもなく、圧倒的なテクニックで威嚇するわけでもない。まるで古くからの友人に接するような親しみと尊敬を持って、身の丈に合った自然な語り口で奉でられる森の音楽からは、気難しいオッサンが、心を許した人にしか漏らさない人間的な本音がポロっと聞こえてくる瞬間がある。

 1995年のショパン・コンクールに出場し、ディプロマを獲得している森だが、幼い頃、故郷・盛岡のホールで聴いたリヒテルの「テンペスト」に衝撃を受けて以来、ベートーヴェンはいつでも彼女の一番好きな作曲家だった。
「一瞬にして魂の奥底まで訴えかけてくるところが魅力。悲しい曲を弾いている時でもエネルギーをもらえるんです。私が受けた1989年当時のベートーヴェン・コンクールでは(注:森は第4位に入賞した)、課題曲もすべて彼の作品だったのですが、コンクールの翌日から、ますますベートーヴェンを弾きたくなったほど。演奏会ではそんな私の気持ちを共有していただきたくて。ふだんあまりクラシックを聴かないような高校時代の同級生が、『ベートーヴェンって、いいね』と言ってくれると、うれしいですね」
 8月の最終回は、ソナタ第4番で始まり、第16番、そして最後のソナタ第32番で締めくくる。1回の演奏会で初期・中期・後期と作風の変遷もわかる。

 「今回、第32番を弾き終えて全曲を完奏した瞬間、一体どんなことを思うのか、楽しみにしながら練習に励んでいるところです。一時期、ここはオーケストラのようにとか、ここは弦楽四重奏を想起しながら弾かきゃというような強迫観念に悩んだこともありました。でも、弾きこんでいくうちに、ベ一トーヴェンはピアノでしか表現できないことを、ピアノ・ソナタに込めたんだということが、ほんとに実感としてわかってきました。第32番なんか、思いっきりピアニスティツクなのに、もうピアノの表現を超えていますよね。この6年で、自分のなかに心境的な変化が起きたとか、演奏が変わったかはわかりません。でもベートーヴ工ンが大好きだってことは変わらなかった。これからも何度もベートーヴェンの全曲演春会に挑戦したいですね」
(取材・文:長野隆人(編集部))


岩手日報「ベートーベンの魅力たっぷり] 〜森知英さんピアノソナタ第8回〜 (2003年8年4日)
 ベートーベンのピアノソナタの全曲演奏を目指し連続演奏会に取り組んでいる盛岡市出身のピアニスト森知英さん(東京都練馬区)の第八回演奏会は、東京・初台の東京オペラシティ・リサイタルホールで、約二百人の聴衆を集めて開かれた。
 曲目は初期の九番、二十番と後期の大作二十九番(ハンマークラヴィア)の三曲。
ピアノソナタ全三十二曲中、残るはあと六曲という「制約」の中でも、ベートーベンの多面的な魅力が伝わるプログラムが編まれた。
 森さんは明快な美しさを持つ前半の二曲を、歯切れよく、また伸びやかに表現。起伏に富んだ難曲の二十九番も、迷いのないタッチで弾き切り、雄大で崇高な曲想の内面に迫る演奏を聴かせた。

 森さんは盛岡一高から東京芸大卒、同大学院修了。ベートーベンのソナタ連続演奏は一九九九年十月から全九回の予定で、取り組んでいる。七回目までは年二回のペースで続けていたが、今回は大曲が入るとあって、初めて一年の準備期間を取って本番に臨んだ。
 コンサート前に「ベートーベンに集中して取り組むことで、全体の中での個々の作品の位置づけや、それを私なりにどう表現できるかをより具体的に考えるようになった」と話していた通り、過去七回の積み重ねが着実に力になっているよう。
 演奏後は「これまでとは違うプレッシャーがあったが、何とか乗り切りました」と笑顔の中に充実感を漂わせていた。

 最終回の演奏会は来年八月二十九日午後二時から同じ会場で開く。曲目は四番、十六番と最後の作品三十二番。


岩手日報「森知英さん細やかな表現力」 盛岡出身のピアニスト 紫波町で演奏会 (2003年2年18日)
 盛岡市出身のピアニスト森和英さん(東京都練馬区)のピアノリサイタル「名曲の花束」は十六日、紫波町彦部の野村胡堂・あらえびす記念館で、満席の約百四十人の聴衆を集めて開かれた。
 森さんの本県でのリサイタルは、一昨年十一月の県民会館以来。「聴いたことがある名曲」と「聴いたら好きになる名曲」という二部構成で、ショパンやシューマンの耳なじみの小品を中心に聴かせた。
 ピアノソナタの全独演奏に挑んでいるベートーヴェン以外では、最近はシューマンを意識して取り上げているといい、この日も「子供の情景(全曲)」「アラベスク」「飛翔」と演奏。自身の感じたままを大事にしながら、微妙な音の世界を細やかに表現していた。
 東京で継続中のベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏会(全九回)は、残すところあと二回。今年七月に第八回、来春に最終回を迎え、全三十二曲演奏を成し遂げる予定だ。
 「ベートーベンは重圧感の中で取り組んでいるので、こうした演奏会は楽しい。半面、みんなが知っている曲なので怖さもあるんです」。そう言いながらも、演奏後はリラックスした表情で、旧知の聴衆やファンと交流を深めていた。



ムジカノーヴァ 「ベートーヴェンを愛するピアニスト」 (2002年8月号)
 全9回に亘る「ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会」という壮大なシリーズを昨年秋にスタートした森知英さん。いずれの回も好評を博し、注目を集めるなか、いよいよ終盤に突入、2002年8月2日に第7回目の演奉会が行われる。
 小学生のときからべ−トーヴェンが大好きという森さん。初めて《ピアノ協奉曲第4番》を聴いて感銘を受け、《ピアノ・ソナタ第7番》を弾いたとき、「なんて自分に合っているんだろう」と瞬間的に感じたそうだ。
 ”ベートーヴェン国際ピアノコンクール”では、4位入賞という輝かしい経歴の持ち主。「コンクール終了後、ほかの作曲家の作品に目を向けたくなりがちですが、コンクールが終わっても、とにかく弾きたくて仕方がなかったんです」という筋金入り。
 いつかソナタを全曲演奉したいという憧れを持ちつづけていたそうだが、室内楽の共演者に背中を押され、思いきって始めたとか。
 「ベートーヴェンは、非常に形式がしっかりしていて、かちっとしたイメージが強かつたのですが、回を重ねていくうちに、もっと自由で、愛情深くて、やさしくて、丸みのあるイメージがでてきました。そしてピアノ・ソナタの魅力は、人間のすべての感情や自然の風景、宇宙などが一番気高い形で表現されている感じがするところです」。
 毎回、誰もが楽しめるポピュラー曲を入れてプログラムを構成。「今回のステージは、ストレートな感情を表現したいです。なかでも、特に31番は深く掘り下げてみたいと思っています。そして、足を運んでくださる方には先入観をもたずに聴いて欲しいです。初めてクラシックを聴きに来られる方も多いのですが、『あ、ベートーヴェンって、こういう曲だったの!?』というリアクションをうかがうとワクワクします」。
 《ハンマークラヴィーア》が入る第8回目は来年7月30日。ほかにも、「シューマンの世界」と題したリサイタルを来年2月に予定。室内楽も定期的に行うなど精力的な活動を続けている。
 「とにかくヘートーヴェンは絶対に離れられない存在なんです。ソナタ全曲演奏も1度限りではなく、一生のうちに何度か志向を変えてやりたいし、ヴァリエーションやヴァイオリンソナタなど室内楽の曲も演奉していきたい」と夢を語ってくれた。
 あくまで森さんの根底に大きく流れているのはベートーヴェンとはいえ他の作曲家の作品も機会があれば是非!とすべてにおいて柔軟な姿勢で取り組む、その意欲的な想いに触れて、今後の活躍がますます楽しみになった。 (坪田由香)



ムジカノーヴァ 「生き生きとした瑞々しい演奏」 ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会第6回 (2002年6月号)
  東京芸術大学および同大学院修士課程を修了。高枚2年の時に第55回日本音楽コンクールに入選。89年には第8回ベートーヴェ国際ピアノコンクールに第4位受賞他、管弦楽団との共演も多い、森知英を聴く。

 今回は、彼女のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奉会(全9回)の第6回目で、《第11番「グランドソナタ」》作品22、《第24番「テレーゼ」》作品78、《第15番「田園」》作品28、《第26番「告別」》作品81aの4曲が演奏された。
 まず音の美しさに魅かれた。核のしっかりした、それでいて弾力に富む打鍵から紡ぎ出きれた響きは良くコントロールされ、生き生きとした表情を見せる。適正なテンポ感もダイナミズムの設計も申し分なく、作品への瑞々しい共感が見て取れる。素直で伸び伸びした演奏であり、演奏を作り上げて行く過程に試行錯誤の格闘があったにせよ、それが最終的な演奏の中で浄化されている。そこに、演奏者の知恵と才能が感じられた。丁寧に練り上げられた秋の実りが大地に蒔かれ、春になって新芽を出した状態の演奏・・・という風に私には感じられ、悲劇的な題材の中にも演奏の喜びがあり、そういった意味では、人間ベートーヴェンの生命力の強さといったものにも触れられた、貴重な一夜であった。次回の第7回は8月2日に予定されている。
(2月27日、文京シピックホール)(雨宮さくら)



音楽の友「東京の演奏会から」 (2002年4月号)
 東京芸術大学大学院を修了し、89年のべ−卜−ヴェンの国際ピアノ・コンクールで第4位などの実績がある森知英は、全9回の予定でべ−トーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を開いている。
その第6回にあたる当夜は、4曲のソナタがとりあげられたが、森は各ソナタの特徴を、演奏において明快に描き分けた。「第11番変□長調」は、きびきびとし流れを保ち、きっちりと整えられている。「第24番《テレーゼ》」については、曲想にそった優しい表情、柔らかタッチと、快い流れでまとめられ、当夜のなかで最も印象に残る演奏となった。「第15番《田園》」では、音楽の運びに落ち着きがあり、曲のスケールの大きさが、自然な形で写し出された。「第26番《告別》」は、森が持てる力を存分に発揮したような、内容の濃い演奏である。
全体の流れがよかった背景には、彼女がこの作品の標題性を明確に認識したこともあったように思う。(2002年2月27日・文京シピックホールにて)




岩手日報 「緩急自在にベートーべン」 (2001年8月24日)
 【東京支社】本県期待のピアニスト森知英さん=東京都在住、水沢市生まれ=の「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会」は二十日夜、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールで開かれ、盛岡一高や東京芸大の同窓生、音楽愛好家ら百八十人が繊細かつダイナミックな演奏を堪能した。
 全曲演奏会ははぼ半年に一回のペースで開き、今回が五回目。ピアノ・ソナタ第23番へ短調作品57「情熱」など四曲を披露した。鍵盤を優しくなでるように弾きながら、一転して全身を使い高速の指使いをするなど緩急自在の表現で聴衆を魅了した。
 音楽関係者からは「人生の悲哀を乗り越えて新しい境地を開いたベートーヴェンの内面性をよく表現していた。森さんには曲の精神をつかむ力が感じられる。速く複雑な弾き方が要求される曲でも音が澄んでいる点もすばらしい」と評価していた。
 演奏終了後、森さんは「技術もさることながらその曲が持つ雰囲気、全体を包む大きな空気を大切にしたいと思いながら準備してきた。今の私ができる精いっばいの力を出し切りました」とサインに笑顔で応じながらも「次の第六回演奏会は来年二月二十七日に決まったので再び準備にかかります」と気を引き締めた。



ショパン 「ピアニストの近況」より (2001年8月号)
 99年の秋に始めた『ベートーヴェンピアノソナタ全曲演奏会』も、8月20日すみだトリフォニーホールでの公演で第5回を迎えます。全9回の予定なので、やっと半ばにさしかかったとも言えますが、私自身にとっては、思ったよりいいペースで来ているようにも感じられます。ようやく生活のリズムにこのシリーズがとけこんできた、そんな気がしています。
 ベートーヴェンは私にとっていちばん好きな作曲家で、これまでもずっと弾いてきました。ソナタももちろん大好きでしたが、全曲演奏会などというのは私にとっては遠くから見る山のようなもので、いつかは登ってみたい憧れの存在でした。それがあるとき、室内楽で共演した方から思いがけず 「ソナタの全曲演奏、やってみたら?」と言っていただいたのです。迷いもありましたが、思いきって始めないといつまでも始められない、と勧めていただいて、取り組むことにしたのです。最初は番号順に弾いていくことも考えた
のですが、やはりお客様の聴く耳ということもありますし、なにかしらメジャーな作品を1曲は入れながら、いろいろ組み合わせてプログラミングをしています。
 回を重ねるごとに、ベートーヴェンの愛情深さ、やわらかさが感じられてきて、ベートーヴエンがますます好きになりました。それも、シリーズを続けてきたからこそ見えてきたものかもしれません。ベートーヴェンのピアノ曲からは、いろいろな楽器の音が聞こえてきます。私はほかの楽器の方との共演も多いのですが、そうした活動とこの全曲演奏会とが、そういう点でもうまくミックスされているように感じます。この全曲演奏会のほかにも、郷里の盛岡での学生を対象にしたコンサートなど、企画力を求められることが増えてきました。そういったことも少しずつ身につけていかなければ、と考えています。(森知英談)



産経新聞 「名演奏に300人ウットリ」 (2000年9月26日朝刊)
 JR京葉線・海浜幕張駅前のワールドビジネスガーデン(WBG)のアトリウムで毎月1回開催されている「アトリウムコンサート」が先週、109回目を迎えた。300人の聴衆を前に森知英さんが109回目を記念して、ベートーベンのピアノソナタ第30番ホ長調作品109をピアノ演奏した。森さんは東京芸大大学院修了後、ベートーベン国際ピアノコンクール入賞、ショパン国際コンクールでディプロマ賞を受賞したほか、昨年からベートーベンピアノソナタ全曲演奏会(全9回)を行う話題のピアニストだ。
 白亜のアトリウムドームに差し込む透明な光りのなかに響く美しいピアノの音色に、お昼休みのビジネスマンやOLらがひととき、耳を傾ける。熱心に聞き入る年配の音楽ファンや地域の住民たちの姿も目立つ。
 このコンサートはWGBを管理運営する三井不動産WBGオフィスが、社会頁献の一環として平成3年秋からスタートさせた。今ではすっかり、幕張新都心の曲イベントとして定着、毎回500人前後の聴衆が集まるという。クリスマスコンサートともなると通路から、回廊まで700から800人の聴衆で埋まる。
 今後の開催予定日は10月30日、11月20日、12月15日(午後6時開演)で、それぞれ第一線で活躍する著名た演奏家によるバイオリン、チェロなどのクラシックコンサートが楽しめる。(中尾良枝)



朝日新聞 「ソナタ全曲に挑戦」 (2000年9月1日)
  盛岡市出身のピアニスト森知英さんは、ペートーペンのピアノソナタ32曲の全曲演奏に挑んでいる。 小学生の時からペートーペンの曲に接する機会が多かった。11年前、ペートーペン国際ピアノコンクールに出場し、見事4位に入賞した。「一番好きな作曲家。挑戦しなければ始まらない」と思っていたところ、演奏仲間のチェロ奏者金木博幸さんの勧
めもあり、昨年10月から全曲演奏を始めた。8月19日に東京で開いた3回目の演奏会で、「月光の曲」で知られる第14番など4曲を演奏した。「回を重ねるごとに課題が山積していることに気づく。でも何年後かの再挑戦に向け、積み重ねていくことに意義があると思う。楽しい挑戦」と言い切る。
「ベートーペンの魅力は、力強さ、人間らしさ、崇高さに加え、人間、自然に封して愛情にあふれた人だったことを感じる。この面を残る6回の演奏会で反映できるようにしたい」



音楽現代 「ポーランド国立クラクフ室内管弦楽団・協奏曲のタベ」 (1999年8月号)
 カペラ・クラコヴィエンシス(クラフク室内管弦楽団)は、ワルシャワの南西二五〇キロにある古都クラクフに一九七〇年、今回の指揮者のスタニスワフ・ガヴォンスキによって創立されたオーケストラで、来日も多く、日本の演奏家との共演を毎回行なってきている。
 今回のプログラムは前半にモーツァルトの交響曲第四〇番、後半にショパン/ピアノ協奏曲第二番(独奏、岡田昭子)、ベートヴェンのピアノ協奏曲第二番(独奏、森知英)というものだった。
 ショパンは、ヴェテラン岡田の悠揚迫らざる構えが特徴。とくに、第二楽章のしみじみとした美しさと、オケとの会話の愉しさで、心が満たされてゆく時間を過ごした。一方森の若々しいベートーヴェンもすばらしい。練り上げられたフレージング・アーティキュレーションが、歯切れ良いリズムに支えられた秀演だ。小人数ながら、コクのある響きをもったオケと、巧みな指揮でソリストを支えたガヴォンスキに盛大な拍手が贈られていた。(6月24日、新宿文化センター)(保廷裕史)



ショパン「鍵盤で自由な語りかけ」 (1997年9月号)
  ピアニストにとってこれはごく当然なことかもしれないが、指先に細やかな神経がよく行き届いた人というのが森知英の演奏から感じられたことだった。指の着地の瞬間と、それぞれの音にもっとも期待される強さとがほぼぴたりと決まっている。その軽妙な指使いから生まれる美感にも魅力がある。そして心の鼓動をそのまま鍵盤に移し変えることのできる自由さをも持ち合わせている。フランツリスト管弦楽団などと協演活動をしているのもこういう資質が楽員に迎えられてのことであろう。
 今回のリサイタルで取り上げたベートーヴェンのソナタ7番と、フランクの「プレリュード、コラールとフーガ」は共にユニークな内容をもつ2楽章で知られている。孤独と、静寂の境地、というふうにふたりの作者の立場は異なるが、それらをいかに聴かせるかが注目されるところだった。ベートーヴェンのソナタでは、最初の速い楽章で強弱の指定をほぼ忠実に再現したため劇的な余韻が強く残り、続く緩徐楽章との対比が難しかった。
 昔の楽器の機能に合わせてか、グレン・グールドなどは、このプレストを軽やかなダイナミズムの、やや抑えた表現に止めている。ひとつの方法かもしれない。しかし曲の後半は、じっくりとした取り組みで、時にはリズミカルで快適な運びを交え、曲全体としての一貫性もみせた。
 フランクの作品の魅力はその精神性と並んで絶妙な音に村する感覚であろう。ここでは音のドラマより、和声的な輝きを前面に出した方が面白かったのではとも思われた。
休憩後のショパンは素朴で淡々とした、そして意外に晴れやかなマズルカ(作品59の3曲)で始まった。変二長調のノクターンは音の捉え方がごく自然で、いかにもその音を慈しむかのような演舞であった。これとは緩急ところを変え、変イ長調のワルツは密度の高い熱演で、絢爛たる 「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」と相まって、ほぼ十全ともいえる好演を示した。
(6月19日 東京文化会館小ホール)


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